10.終わりは快晴、別れ道に笑み(こうべ)



 やがて佐介から知らせを受けた村落の人々が慌てふためきながら駆け集まってきた。
 それぞれがそれぞれに肉親のもとに走り、命ある事を喜び、泣き、そして許しを乞うた。
 だが残り半分の、最早元に戻る手立てない者の家族たちは、ただただ魂の抜け殻を抱き、涙を流した。
 二者二様の結果の在り様を、雷蔵と佐介は勾覧に寄りかかりながら眺めていた。

「なんつーかなぁ……」

 佐介の声を横で聞きつつも、雷蔵は無言である。
 佐介の言わんとしている事は分かる。無事だった者とそうでない者と、見事に半分に分かれてしまった。
 それを含め、今までの所業についても今後村落内で歪や紛争が生まれることだろう。
 しかし雷蔵は、それも仕方ないことだと冷淡に割り切っていた。
 助かった者がいる半面で助からなかった者の存在も、すべては村の人々の行いが招いた応報だ。あやめに言った事と同様、何かを望むときは決してただでは通らない。相応の代償を払わなければならない。
 この世で生きるということは、厳しく、辛く、そして残酷なもの。それは生きとし生けるものすべて平等に架せられた枷だ。
 だが本来己に苦を課して為さなければならないことを、それを忘れ楽をして何かを得んとし、あまつさえ何の関係もない旅人達までを巻き込んだ愚行がこういう結果を生んだ。
 人は快楽に弱い。そして快楽は正に惑薬(まどいぐすり)のように人を更なる快楽へと導こうとする。その欲に抗えなかった時点ですでに本人の責任なのだ。
 だが肉親を喪う痛みを知る佐介に聞かせることではないと考え、雷蔵は何も言わなかった。

「そういや聞きそびれてたが、なんでお前こんなところにいたんだ?」

 ようやく思い出したかのように佐介が訊いて来た。

「いやー、いろいろあってね。金五十両の報酬と引き換えに村の若衆を連れ返すって依頼を受けたんだよ」
「お前が?」

 佐介が驚いたように目を丸くする。

「あのお前が全く赤の他人の依頼を受けたってのも意外だが、まさか金で動くなんてな」
「別に金は欲しくはないよ。金五十両なんて大金、重いし邪魔だなだけだし。でも、何もせずともただで助けてくれる人間が現れるなんて思って欲しくなかったからね。とりあえず人に危険を頼むんだからそれくらいの負担は必要だということを主張しただけさ」

 さすがに金五十両は無理だろうから結局様々な村からあやめに巻き上げられた金をもらう、という一種の温情で契約は成立したわけだが。

「で、じゃぁ金はどうするんだ?」
「さっき裏に埋めてきたよ。尤も―――

 言いながら雷蔵は懐をごそごそと探り、

「少しだけ失敬したけどね」

 にやりと笑い、懐から取り出した小金に輝く大判を数枚開く。
 佐介は呆気にとられた。まったく、本当に抜かりがないやつだ。
 いやまて―――

「ていうか、今『埋めてきた』とか言わなかったか!?」
「うん」
「んなことしてどーすんだ!」
「だってあれは一応俺が貰った依頼料だもの。思ったより大分少なかったけどね。まぁ必要になったら掘り返しに来るかもしれないし、その前に運のいい誰かが見つけるかもしれない」
「って、お前な……」

 佐介はガックリと脱力した。無欲のか馬鹿なのか分からない。
 結局その後数百年後、屋敷が取り壊されたこの地で、畑を作るべく井戸を掘っていた農夫がたまたま金三十三両あまりの『埋蔵金』を発見することになるのだが、それはまた別の話。

「さっき姿が見えなくなっていたのはそのためだったのか……」

 ぶちぶちぼやく佐介に笑いつつ、視線を動かす。
 ふと見やれば、集落の老人のなかにあの老夫婦の姿があった。ひとりの少年を助け起こし、背や肩に触れ抱きしめて泣いている。
 症状も軽い方だし、子供の回復力というものは往々にして早い。少し休めばすぐに元気になるだろうと見込まれた。
 たしか捨て子だったところを子のいなかった彼らが拾って育てていたという話だったが、それが神仏の慈悲を得たのかもしれない。
 そんなことを思い、とりあえず依頼でもっとも重要な部分は完了したようだ、と判断すると雷蔵はその場から踵を返した。
 ここにもう用はない。早めに立ち去った方が後々の面倒もないだろう。

「おい」

 ややしてから追ってきた声に立ち止まって振り向く。
 すると、同時に何か重いものが胸に投げ当たった。

「!」

 反射的に受け止めてみれば、それはいつも携えていた旅道具一式と、あの琵琶風の楽器だった。

「ほら」

 続けて放られた錫杖を右手で掴むと、鐶が聞き慣れた音を鳴らした。
 顔を上げて佐介を見やると、ふてくされたような、なんとも言いがたい表情をしている。

「君が保管しててくれたんだ」
「捨てるに捨てらんないだろ、んなもん」
「ありがとう」

 笑顔で返して、手馴れた手つきで身につける。うん、やっぱりこれがあったほうがしっくり来ると満足気に頷く。

「って、どこへ行くんだ?」
「ちょっと遣り残したことがあってね」

 意味深な言葉を残し、錫杖の音も涼やかに雷蔵が向った先は昨日自分を嵌めた(とはいっても実際には嵌った振りをしただけだが)あの一家のある村だった。
 一日たった今、快晴の下に照らされる村内はあの邪悪な気や異臭もなく、蟲たちの姿も消えて元通りの様相を取り戻していた。
 覚えのある佇まいを見つけ、戸口の方へ回る。
 と、そのとき、不意に中の方で争う合う声が聞こえてきた。直後にガタガタッと耳障りな音を立てて戸が開けられ、中からあの男が飛び出してきた。
 形容しがたい負の感情に歪んだ面が、雷蔵を捉えた途端さらに恐怖に慄いた。

「ひ、ひいい!!」

 狂ったように悲鳴を上げながら、慌てて逃げようとする。が、足許が覚束ず、数歩行ったところで無様に転げた。それでもなんとか恐怖の対象から逃げようともがく。

「なんなんだ?」

 何だかんだ追いかけてきた佐介が訝しげに雷蔵に視線を送るが、雷蔵は男の存在など目に入っていないかのように見向きもせず素通りし、開け放たれた戸口の中へと入っていった。
 家の中は散々に乱れており、土間の端の方で老母と姉が身を寄せ合うようにして怯えながらこちらを見ていた。
 それにも雷蔵は一瞥をするのみでとくに会釈もせず、断りなしに畳へ上がると真直ぐ奥に敷かれた布団の側へと近づいた。
 横たわる痩せた女の枕元に膝をつき、そっと声を掛ける。

「やあ。聞こえるかな?」
「……」

 辛抱強くまてば、やがて瞼を痙攣させて女は薄らと瞳を開いた。
 ゆっくりと視線を巡らし、声の主を捉える。途端、悲しみに眉宇を寄せ、喉を震わし声なき声で懸命に言葉を紡ごうとした。
 雷蔵は分かっていると頷き、無理させぬように手で制する。
 厄は去ったのにもかかわらず、容態は昨夜見たときと変わっていない。病弱な身体で長いこと瘴気に当たっていたことが、害因がなくなった今でも深刻なところまで体内を蝕んでいる理由だろう。
 女へ何かを言いかけた雷蔵の言葉を妨げるように、後ろの戸口から怒鳴り声が舞い込んできた。
 背後では男が手に鉈を持ち、凄まじい形相で立っていた。
 剥いた目玉が血走っており、正気を保っていないことは明らかであった。
 男は口角泡を飛ばしながら更に怒鳴る。

「キ、キサマぁ!! 仕返しに来やがったんだなっ!? 騙した俺達を、こ、殺しにやってきたんだろう!! そうはさせるかぁッッ!!」

 我を失い、狂った様子で、鉈を振り回した。戸も、その側にあったものも闇雲に破壊しながら突進してくる。老母達の悲鳴が上がった。
 布団に伏せた女が息を呑む。悲痛に両目を見開き、力を振り絞って腕を上げ、なんとか止めようともがく。  雷蔵はそれでも振り向くもその場を動く事もなく、逃げろと訴え恐慌する女に安心するように笑顔で宥めた。 

「うぉおおお!!」

 咆哮とともに男が鉈を振り下ろすのを止めたのは、佐介だった。

「ったく、危ねーオヤジだな」

 片手で男の手首を掴みつつ、呆れた溜息をつく。
 己の範疇になかった『敵』の存在に男は呻くが、どんなに足掻こうとも掴まれた腕はピクリとも動かない。

「おい、雷蔵。コイツどうする?」
「病人の刺激になるからそのまま黙らせといて」
「あいよ」

 言うや否や、男の首に腕を回し締め上げた。喉元を圧迫され声が出ないだけでなく、身動きもできない。体格では明らかに男の方が勝っているのにもかかわらず、難なく動きを封じる佐介の怪力は驚異的であった。

「殺すわけじゃないから気にしないでいいよ」

 形勢逆転とはいえ夫の有様にやや不安げな表情を浮かべる女へ雷蔵はそう言うと、ようやく羽交い絞めにされている男の方を振り向いた。

「普通なら放っておくところなんだけど」

 一転変わって、凛然とした声音で、男に言った。
 一瞬にして空気が冷えるような感覚に、さしもの男もハッと戦慄を覚えた。同時に佐介の腕を外そうと暴れていた身体が怯み、握り締めていた鉈を落とす。

「他人を陥れてまで望みを叶えてもらおうとするような人間の家がどうなろうと俺の知ったことじゃない。でも、自分の命が掛かっていながらそれでも俺に危険を教えてくれた彼女の義には報いなければいけないからね」

 腰帯に括りつけていた小さな小袋を外し、中から小さな紙包みを取り出した。

「この薬は体内を活性化させて欠損部分を補う効果がある。中には七粒入っている。病の源が消えた今、一日一丸のめば七日後には普通の人と変わらないくらいまで回復する筈だ」

 それを女の枕元へ静かに置くと、用は済んだとばかりに立ち上がり、草履を履いた。
 男の側を通り過ぎ際に佐介へ「もういいよ」と一言言えば、佐介はあっさりと拘束を解いた。

「なんだか分からんが、とりあえずアンタは正直者の奥さんに感謝するこったな」

 男は前のめりに倒れ、そしてその場に手をつき嗚咽を漏らし始めた。
 男の狂乱は、己の為したことに対する良心の呵責に耐え切れずの末なのだろう。元から罪を犯すのに向いていなかったのだ。

「んならはじめっからしなけりゃいいのになぁ」
「人は必死になると何でもするってことだろうね」
「だからってな……そんなで助かってもあの奥さんなら喜びゃしねーだろう」
「そうだね。他人の不幸の上に築いた幸せなんて所詮は虚構でしかない。いつまでたっても罪は重くついて回るから」

 雷蔵は微笑を湛えた。
 2人肩を並べ、道中を行っている。雷蔵が来た道を逆に辿る形となる。
 数日前の土砂降りで、道は黒くぬかるんでいた。ところどころできた池に、空の青が映っている。

「にしても、少しお前変わったよな」

 不意に漏らされた佐介の一言に、え?と雷蔵は顔を戻す。
 頭の後ろに手をやりながら、佐介は天を仰いで笑った。

「なんとなくだけどさ。それにほら、結局あのあやめって女を殺さなかっただろ?」

 昔のお前だったら手間かけずに容赦なく一刀両断だったじゃん―――とおどけた風に言われる。
 雷蔵は苦笑した。
 あれは別に情けをかけたわけじゃないのだ。

「彼女を殺したところで、呪詛に引き寄せられたモノは消えないからね。それどころか行き場を失った呪が手当たり次第関係のない人間を襲う可能性もある。だからきちんと呪詛を返しして綺麗に掃除しただけさ。それに、『返りの風』で死ぬ死なないは彼女次第だ。けど彼女は今や力を失っただけでなく声も聴覚も奪われ、容姿も変わり果ててしまった。あの状態で今後生きてかなければならないと考えれば、死ぬよりもより大きな苦痛かもしれないよ」
「う……うんまぁ、それはそれでかなり残酷だよな……」

 想像して佐介は青くなった。死よりももっと辛い苦痛。本人が何よりも糧としてきたものが一切失われた世界。自分ならいっそ殺してくれと懇願しそうだ。
 だがそれを受けるだけのことをあやめはしたのだから、同情の余地はなかった。返りの風の裁きはいつだって情け容赦なくも平等であった。




 ―――う……

 ふと、意識が闇から浮上した。
 うつ伏せに投げ出された体を震わせれば、床の上の固く冷たい感触が返って来る。

 ―――私は、一体。

 音のない沈黙の世界の中、おそるおそる身を起こす。途端、全身が激しく痛み、思わず呻いた。これは夢の続きなのだろうかと、働かない頭でぼんやり考える。
 ゆっくりと首を巡らせた―――倒れた屏風、破れた几帳、無惨な御簾―――徐々に、己の名と記憶を取り戻す。

 ―――私は確か呪詛返しに……

 夢ではなかった。昨晩のことがまざまざと蘇ってくる。
 室はしんとしている。誰もいないのだろうか。
 そろそろと床を弄る。感触がある。私は―――生きている。
 笑い出したくなったが、喉がかれているのか声が巧く出ない。だがそれでもよかった。私は、生きている。

 ―――ふ、ふふ……あやつめしくじったな。妾は生きている。生かして見逃した事を後悔させてやる。

 意識がはっきりしてくると同時に、体内にいる異形の気配が頭を擡げる。

 ―――妾はまだ終らぬ。母のように惨めな最期を晒したりはせぬ。きっとこの復讐を……

 かた、と何かが手に当たった。
 目を落としてみると、それは鏡だった。確か祭壇に供えていたものが落ちてきたのだろう。
 何気なく手にとって見る。
 そして、次の瞬間凍りついた。

 ―――誰だこれは―――!!
 驚愕に全身が震える。蓮型の鏡の両端を掴み、食い入るようにそこにうつるモノを見つめた。

 ―――こ、これが妾だというのか!? そんな馬鹿な!!

 銀の中からは、真白な髪と、皺と老斑だらけ汚らしい老婆が醜い姿でこちらを凝視している。
 鏡を掴んでいたしわくちゃの手を目の端に捉え、思わず息を呑んだ。

「ヒッ」

 咄嗟に手を放す。鏡が割れ、破片が無数の光を反射した。
 だが予想していた筈のその盛大な音も、耳に届かない。それで、違和感に気付いた。

 ―――聞こえない!? 何も、音がっ!

 瘧のように震える。恐ろしさと信じがたさに、引き連れた痛みを訴える身体を引き摺ってとにかく日が当たるところへ出ようとした。

「ウー、ヴァ、ゥッ」

 声が出ない。喉が渇いているのではない。声帯が潰れてしまっているのだ。
 そのことを悟って愕然とした。
 こんな、このような!!
 板を這い、両手の爪を立て身体を引き摺る。
 体内の妖が外へ出ようと蠢く。

 ―――出せ、出せ!

 声が響く。しかし、妖は老婆の体内から出ることはなかった。
 術によって封じ込められていたのである。その肉体そのものを器として、そしてその精気を鍵として、力ごと。
 解こうにも、声が出なければ呪も唱えることは叶わない。

 ―――そんな、永遠に、死んでこの身体が朽ち果てるまでこの姿でいなければならぬのか!?

 ―――死ぬまでこの姿―――美貌も力も失って―――

 二つの声が錯綜する。どちらが自分の声なのか最早判然としない。『自分』?
 この『自分』は『どっち』だ―――

 ―――嫌だ、嫌だ嫌だイヤダイヤダ……!
 ―――コンナスガタデ……
 ―――ダレカ!

 床が微かに揺れる。  ハッとして見れば、そこには人間が立っていた。
 無表情に、茫然と自分を見下ろす、被り物をした中年の女。
 見るな、と思った。私より醜いくせに。見るな。この姿を見るな。
 釘づけになって見上げていれば、ようやくそれが近くの村女だと思いだす。確か、娘を献上してきた母親だったか。
 だがその目は洞のように黒く、自分を見つめてどこまでも暗い。
 ぎくりとした。
 見れば、欄干の向こうまで、ずらりと人間が並び、こちらを見ている。
 誰も中年から老年の年頃で、女と同じ目でじっと見ている。

『あやめとやら。人を呪わば己が呪われる。人を軽んじ、命を軽んずる者は、いずれ同様の扱いによって己が身を滅ぼすと知れ』

 今になって、あの憎き男の声が蘇る。

『人を呪わば穴二つ。何かを求めるときは同等の代償を覚悟しなければならない。心の弱さは免罪符にはならない。己のすべてに責任を負わなければならない』

 あの糞忌々しい法師の声が木霊する。
 傍に立つ女の手に、何かがキラリと何かが光っている。
 草刈り鎌。
 愕然と絶望が胸を支配する。
 今まで陥れ呪い殺してきた者達の嘲笑が聞こえた気がして、声無き悲鳴が、真白い光を降り注ぐ空に轟いた。






「それじゃあ、俺はこっちだから」

 二股に分かれた道の真ん中で、佐介は立ち止まって言った。
 雷蔵も同じように足を止め、笠を少し上げて道先を望んだ。

「そっか。じゃあここでお別れだね」
「ああ」
「色々すまなかったね」
「いや、こっちこそな」

 ふっきれた顔で佐介は笑った。そこに昏い影はもう見えない。
 そのことを雷蔵は素直に良かったと思う。昔から佐介は明るくお調子者な性格が皆に好かれていた。

「またどこかで会うかもな」
「ああ」

 この乱世。佐介が諜報を主に全国を飛び回り、そして雷蔵が気の向くまま風の吹くまま思い思いに流れていれば、またいつか互いに顔を合わせることもあるだろう。
 願わくばそのときにまたかつてのように酒でも酌み交わし昔話に花を咲かせられればいい。

「もし昔の生き残りにあったら君のことも伝えておくよ」
「ああ、俺もちょいと他国の忍びの動きに気を使ってみる」
「頼んだよ」
「じゃ、達者でな」
「君もね―――あ、そうそうあと」

 雷蔵が思いついたかのように付け加える。

「『越後の龍』殿にもよろしく」
「ああ―――……あぁッ!?」

 雷蔵の一言に頷きそうになりながら、佐介は驚愕に両目を剥いて振り向いた。

「なななな、おみゃー何言ってんだ!!」
「彼はとても善い男だよ。〈秘伝〉の噂に惑わされない数少ない武将だ。良い人に仕えられて良かったねぇ」

 じゃ、と言って、慌てふためく佐介を残し颯爽と分かれ道の片方へ足を進めた。
 佐介は悔しげに唇を噛んで遠ざかる後姿を睨み、やがて腹癒せとばかりに大声で言った。

「死ぬんじゃねーぞ、雷蔵!!」

 すると、応じるようにひらひらと片手が振られた。
 ふん、と佐介は鼻を鳴らし、それから、

「にしてもなんで分かったんだ?」

 と頭を捻った。
 今度会ったら聞いてみよう、と自分も行くべき道に足を向ける。
 そこでふと立ち止まって、分かれ道の中間になぜか首だけの道祖神が笑顔を浮かべて地面から生えているのを見下ろすが、僅かに疑問気に首を傾げるだけで、すぐさま興味を失ったように正面を向き直った。


 すべての答えはとうに道の先。




第1話・完
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ここまで読んでくれた方々、ありがとうございました。
なんだか至らないところとか矛盾したところとかてかむしろ何じゃこりゃな部分もあったと思いますが、そこら辺は笑って目をつぶって下さい。
ちなみにこの中に出てきた理論やら理屈やらは全部私の創作です。一見もっともらしく見えても全部フィクションです(一応それなりに本とか読んだ上でですが)。